この章では、ラテン語の前置詞について学んでいきたい。
ラテン語の名詞には6つの格があるのだが、名詞とほかの要素との間の関係がたった6種類で表されるといったら、そういうわけにもいかない。そこで前置詞の出番になる。名詞や動詞を修飾したりと、英語の前置詞をイメージしてもらえればわかるような活躍をする。
基本的には、前置詞は英語のそれと同様に扱って構わない。ラテン語では、形容詞などの名詞を修飾する語は名詞の後ろに来て、副詞などの動詞を修飾する語は動詞の前に来るので、前置詞句もそのとおりの位置に置いてくれれば良い。ただ、ラテン語の前置詞には、英語のそれにはない問題が横たわっている。前置詞の置かれた名詞の格を何にするのか、という問題だ。この答えには、3つのパターンがある。対格のみをとる前置詞、奪格のみをとる前置詞、そして、対格と奪格で意味を変える前置詞、の3つである。
と、まあ、少し問題を煽ってみてはみたものの、基本的には前置詞は不変化詞。活用とか曲用とか、ややこしい変化はないので、この章は軽く読んでくれればありがたい。
対格のみをとる前置詞、奪格のみをとる前置詞、この2種類は、素直に辞書を見て区別すれば問題ないと思われる。問題は、対格と奪格の両方をとり、名詞の格で意味を変えてくる前置詞だ。
この前置詞の例として、「in」がある。対格、奪格ともに場所を表す前置詞には変わりはないのだが、対格をとる場合は、「どこどこへ」と、目的地を示し、奪格をとる場合は、「どこどこで」と、現在の場所を示す。
Pater, in manus(第4曲用名詞の対格) tuas commendo spiritum meum. 父よ、私の霊を御手に委ねます。
Et erit in pace,(第3曲用名詞の奪格) memoria ejus. 彼の人の面影は、平安のうちに憩うようになるだろう。
「Sept Répons des Ténèbres/Francis Poulenc」より例に挙げてみた。どちらも日本語では「に格」をとるが、意味の違いは明白であろう。
他にも対格と奪格と両方をとる前置詞はあるのだが、対格では静的な意味、奪格では動的な意味、という点では共通している。
ラテン語の前置詞について学んだ。
次のラテン語を日本語に翻訳しなさい。解答は、問題の後ろの黒い部分をドラッグすれば出てくる。